蜜ありと蜜なしのあいだで。
今年は気温がぐっと下がったせいか、りんごに蜜が入った。
りんごの蜜は、寒く冷え込んだときに現れることが多いらしい。
シナノホッペも、ふじも、去年とは少し様子が違う。
半分に割ると、芯のまわりがほんのり黄色く透けていて、
その部分だけ色が濃い。
りんごはね、蜜があるから甘いわけじゃないんだよ。
そう、旦那が言った。
……え? どういうこと?
蜜が入ってる=甘い、じゃないの?
そんなふうに思い込んでいた私は、頭の中にいろんな疑問が浮かんで、
まずは、自分の舌の記憶をたどってみた。
たしかに、蜜の部分が特別甘いわけではなかった。
あれは、りんごの味の一部。
それ以上でも、それ以下でもない。
じゃあ、あの鮮やかに透けた部分は何なんだろう。
旦那は続けた。
「蜜入りで甘いですよ」 と言ったほうが売れるから、
誰かが宣伝文句として言い始めたんだよ。
……え、それってつまり、
ずっと信じてたことが、思い込みだったってこと?
旦那はさらにこう言った。
蜜があるから甘いわけじゃないし、
美味しいりんごに蜜が必ず入るとも限らないんだ。
味はまた、別の話なんだよ
じゃあ、“甘い”と思っていたあの部分って、
いったい何だったんだろう。
なんとなく腑に落ちない、その感覚を抱えたまま。
ふと、去年食べたりんごを思い出す。
あのときは、蜜なんてほとんどなかった。
でも、シャキシャキの食感も、新鮮な香りもあって、
「ああ、ふじがやっぱり一番好きだな」と
しみじみ思った、あの味。
蜜があってもなくても、
美味しいものは美味しい。
蜜は「味」ではなく「サイン」
調べてみると、
蜜は果実が完熟して、糖分が染み出した成分によるものらしい。
あの蜜は、果実がどんなふうに育ってきたかを映すサインであり、
そのりんごが迎えている“今”を知らせてくれるものでもある。
りんごが迎えているその“今”にはそんな意味がある一方で、
美味しいものを長く味わいたい気持ちもある。
そして、長く届けたいと願う農家の思いもある。
知らないうちに、自分の中に
“思い込み”や“決めつけ”があったんだな、気づかされる。
食卓でふと交わした会話が、
そっと、心に残った。
剪定の先にあるりんごの味

収穫の最中、旦那がぽつりとつぶやいた。
次はこの枝を切ろうって、剪定のこと考えてるところ
その横顔を見て、
またひとつ、知らなかったことを知った気がした。

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